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God bless you. -io felicito. 雨の日に見つけたずぶ濡れの温かさひとつ 背中を押されたような気がした 私が手を伸ばして掴まなきゃいけない 逃げるのも隠れるのももうやめたよ 私もうひとりじゃないから - 13 - カランと落ちたナイフの音が印象的だった。 土砂降りの雨の中、震えた呼吸の音ふたつ。 俺の足は動かない。ただ少し向こう側にリィが見える。 俺は泣いていた。土砂降りの雨に濡れながら、それでも熱いいくつもの筋が頬を濡らしていく。 身体は冷たくなり、身も凍るようだったが何故か心だけは温かい。 そして、リィがゆっくりと、ゆっくりと俺の方に足を進めてきた。 もうナイフを捨てた俺は、自分を殺す術など持たない。そう思って、リィは足を進めて来たのだろう。 ゆっくりと、ゆっくりと差し伸べられた手が俺の頬に触れた。 それは俺の手と同じように冷たくて、ずぶ濡れだった。 俺はその手を振り払うことが出来なかった。 目の前にリィがいる。寒さで息が震えている。瞼が熱い。ナイフはもう無い。 俺は近づいてきたリィの唇を、待ち侘びていたように受け止めた。 リィの頭に手を伸ばす。そのキスはなかなか離れることはなかった。 まるで5年分、いやそれ以上の思いを一気にそのキスに込めたように。 くしゃ、とリィの手が俺の髪を掴んだ。 そしてやっと離れた唇。俺はリィの腕の中でもう一度泣いた。 灰色だった空を割って、光が漏れていた。 「……っ」 す、とリィの手が背中を滑る。1週間前までは普通に触られていたのに、息が詰まる。 過去にどれだけあの男がこの背中を触っただろう。それは数え切れないくらいあるはずなのに、これが初めてのように感じる。 そして降って来たリィの唇を首筋で受け止めた。 「ん……」 「声、出していいよ」 するりとリィの手が下へと滑る。びくん、と身体が跳ねた。 涙が滲んだ。視界がぼやけてリィの顔が見えなくなる。それでもリィの腕の動きは止まることはなかった。 「……っあ…」 涙が一筋頬を伝った。どうして涙が出たのか自分でもよくわからなかった。 嬉しくて泣いているのかもしれないし、もしかしたら後悔しているのかもしれなかった。 ふと、身体を滑る感覚が消え、優しいリィの手がそっとその涙を拭う。 目の前には心配そうに見つめるリィの表情があった。 「大丈夫? ナーヴァ……」 「……っうん、だから」 やめないで。 その一言にリィがくすり、と微笑んだような気がした。 「わかったよ」 そしてもう一度リィの手が俺の身体へと伸びた。 「……っあ…、あッ!」 入り込んでくる指の感覚がどこか懐かしくて、それでもあの時とは絶対に違うと思っていた。 あの時の指ではなかった。当たり前だが、あの時俺が殺したあの男の指にはない感覚があった。 身体が跳ねる。涙が止まらない。 その時、中のリィの指がくい、と曲がった。 「ひぁ……ッ!」 「……ここ?」 声が変わったのをリィは聞き逃さなかったようだった。 曲がった指は戻らず、何度もそこを責めてきた。 「あ…ッやだ、リィ……ッ!」 「嫌じゃ、ないでしょ」 「や……っだけど、あぁッ!」 何度も同じ箇所を責められて気が狂いそうだった。足はがくがくと震えていたし、声は上ずって女のようだ。 あの時はあの男以外に足を開くなんて考えられなかったのが今ではそれが嘘のようだ。 俺の身体にはあの男に抱かれていた時代の跡が沢山ある。それは痣であったり傷であったり様々だが、リィはこれを見てどう思うのだろうか。 今は薄暗さで気付かれていないそのことを、リィの下で鳴きながら考えていた。 ふと、あれだけしつこく責めていたリィの指の動きが止まった。 その後、リィの静かな声が上から降って来た。 「……ナーヴァ」 「何、だよ……ッ」 「……やっぱり、細いね……」 する、と一旦指が抜かれ、その手が俺の身体を撫でた。空気の冷たさに体温を奪われたリィの手だった。 薄暗くてリィの表情まではわからない。だけど、俺の身体を撫でるその手は、とても悲しそうだった。 そして俺の胸に、リィの優しいキスが降って来た。 静かに唇が離れて、リィの呼吸音が聞こえる。 「ほんとに、いいの……?」 不安げな声。 生まれてから今日まで、俺の中に入ったのはあの男だけだった。あの男しかいなかった。 だから俺の中には、ずっとあの男の跡が残るだろう。 だけど俺は、 「―――……いいよ」 俺は、リィのものでありたい。 「……わかった、じゃぁ」 いくよ。 「……ッあ、ぅ…!」 「…は……ッ!」 光が差さない薄暗い部屋の中で、ベッドが軋んで揺れる影ふたつ。 一週間ぶりの感覚。 あの時はこんな光景が当たり前だと思っていたのに。 「や、ひぁ……ッ!」 「……っキツ……」 涙が止まらない。 あの日、あの時の記憶が一気に蘇ってくる。 違う。今俺を抱いているのはお前じゃない、リィなんだ。 俺がたったひとりだけずっと好きだった、リィなんだよ。 なぁ、俺のこと見てるか? 俺はお前殺してここまで逃げてきたんだ。 だけど俺今幸せだよ。 「……は…、リィ…も、無理……ッ!」 「うん……俺も……ッ!」 そして俺の中に熱いものが流れ込んできた。 この熱さを忘れたくなかった。 ゆっくりと抜かれた後、リィが大きく息を吐きながら俺の身体を抱きしめる。 俺はリィに無理をさせてしまったのだろうか。 そう思いながら俺もゆっくりと手を回した。 「好きだよ、ナーヴァ」 「……うん」 呪文のように囁かれるその言葉を黙って聞いていた。 なぁ、これでも俺後悔してんだ。 あの時はお前を殺したことに後悔なんてなかった。 でもさ、やっぱり俺後悔してんだよ。 俺、もう人殺しなんだよな。 なぁ、ごめんな。 今、悪かったってすごく思ってる。 ごめんな。 殺しちまって、本当に、ごめんな。 涙が止まらなかった。もう眠りについたかもしれないリィの身体を抱きしめて、ただひたすら泣いていた。 もうそろそろ日が差してくる頃だろうか。 部屋はゆっくりと明るくなっていく。あれだけの雨はもう上がってしまった。 まだ眠りたくなかった。 この涙を止めたくはなかった。 left : 26th September 2005 後悔して先に進む もう振り向かない だからお願い 今日だけは next. |