化学の発達に伴い、人間の暮らしは飛躍的に便利になった。
 人は次々に新しいものを開発していった。例えばそれは空を飛ぶ車だったりとか、空間を自在に操ることが出来る機械だとか、
 とにかくその成長は目覚ましかったのだ。
 しかし、その反面人間の成長は思わぬ闇を秘めていた。
 まず空気が淀み始めた。透明で澄み切っていたそれは徐々に色を持ち始めた。
 その原因は大量に空中へと舞いあがった埃や塵、排出され続ける二酸化炭素や灰だった。
 それはやがて「灰」という色を持ち、重みを伴って人々の身体へと落ちてきた。
 どんよりとした空気、色づいてしまった空気、それはゆっくりと、ゆっくりと汚れた手を伸ばしてきた。

 水が腐り始めたのだ。
 落ちてきた空気が溶け込んで、水は濁り、大量の毒素を含むようになった。
 「水が死んでしまった」と誰もが嘆いた。あれだけ透明にキラキラと輝いていた水の姿は何処にもなかった。
 浄水機を通さないと水は飲めなくなった。しかし、その浄水機は簡単には手に入れることが出来ず、
 大部分の人々はその腐った水を飲むしか喉の乾きを潤す方法がなかった。
 そうして人間はどんどん犯されていった。
 その水に含まれる毒素はまず人間の心を変えた。普通に過ごしていた人間の心が悪魔のようになった。
 人は人を殺すようになった。人を殺して楽しむようになった。
 そして人間の皮膚や臓器を浸食し、外見だけは人間でも中身は既に別の生き物だった。
 その毒素には感染力があり、周りの健康な人々をも巻き込んでいった。
 人々はそんな水に犯された者達を「デッドエンド」……人間の行き止まりだと呼ぶようになった。
 毒素は母体から子にも行き渡り、デッドエンドの母を持てばそこから生まれる子供もまたデッドエンドだった。
 そうしてデッドエンドは世界中に蔓延していった。
 しかし彼等には大きな弱点があった。
 水の毒素が麻薬となり、その汚れた水がないと生きられない身体になってしまったのだ。


穢 れ た 水 の 底 に 一 輪 の 花 を 見 た