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God bless you. -io felicito. 生きたいとは思えなくても「明日まで生きてみよう」という思いが大切なんだと思う そうしていつの日かきっと「生きたい」と思えるようになるんだと信じてる だけど俺はいつ死んだって構わないよ 俺が死ぬ世界にはいつだって君がいる だから何も怖くないんだ - 17 - 「えっと……紹介するね。こっちがクリスで、こっちがヴァレンティーネ、それでこっちがヴェロニカだよ」 「え、待ってもう一回」 「だから、この男の子がクリスで、この一番年上な子がヴァレンティーネで、この小さい子がヴェロニカ」 「ねー、リィ兄ちゃん、このお兄ちゃんだーれー?」 クリスと呼ばれた男の子が俺を指差してリィに問うた。 リィは「こら、人を指差すな」とその右手を下ろさせ、微笑みながらしゃがみこんだ。 ちらりと俺を見て微笑み、答えた。 「この兄ちゃんは俺の友達。ナヴァーレって言うんだ」 友達、か。 そりゃそうだこんな小さな子に恋人だなんて教えられたら俺は死んでやる。 まず同性愛は禁忌だ。 俺の名前を知ったクリスは物珍しそうに俺をまじまじと眺めている。 そんな正直な子供らしい様子がとても可愛くて、思わず俺も微笑んでリィと同じようにしゃがみこんだ。 さっきまで俺を指差していた右手を取って、小さく握った。 「ナーヴァでいいよ。よろしく、クリス」 手を握られたクリスはきょとんとしたような表情で俺を見た。俺が小さく微笑むと、彼はだんだんと嬉しそうな表情に変わる。 笑うと可愛い子だと思った。 「うん、よろしくね、ナーヴァ兄ちゃん!」 手をぎゅっと握り返された。その力は大人の手にくらべれば全然小さなものだったけれど、確かにそこに力強さを感じた。 そして、その様子を見ていたヴァレンティーネ、ヴェロニカと呼ばれた子も安心したように寄ってきた。 俺はこのヴァレンティーネに覚えがあった。俺が5年前にこの教会に居たとき、一番小さな子だった。 あの時3歳だったから、今はもう8歳になっているだろう。 「あたし、ヴァレンティーネ。よろしくね、ナーヴァ兄ちゃん」 「うん。久しぶり、ヴァレンティーネ」 「……え? でもあたし、兄ちゃんのこと知らないよ?」 「覚えてないのも無理ないさ。小さい頃よく遊んでたんだけどね」 ヴァレンティーネは不思議そうに首をかしげた。そんなしぐさは変わっていなかった。俺は懐かしさに思わず笑った。 金色の髪に碧眼。今でも覚えている。 そしてヴァレンティーネのあとをとことことついてきた女の子が彼女の影からそっと顔を出した。 ヴァレンティーネはその子に気付いたらしく、しゃがみこんでその子を俺の前に押し出した。 「この子、ヴェロニカっていうの。今一番小さい子なんだよ」 あたしが面倒見てるんだ、と得意そうにヴァレンティーネは言った。 ヴェロニカと呼ばれたその子は上目遣いに俺を見ている。 俺と同じ真っ黒な髪。前髪の間から覗く大きな目は、綺麗な茶色をしていた。 ――――――……そっか、ヴェロニカ。 懐かしい名前だった。 俺はこの子と同じ名前を持った人に会ったことがあった。いや、2年間一緒に住んでいた。 10歳の頃あの場所に連れてこられたときに居たメイド。髪の色、目の色こそ違うが、今ここにいるヴェロニカと同じ、大きな目をしていた。 彼女もまた死んでしまった。2年間一緒に過ごして、そして彼女の方が先に死んでしまった。 きっと、殺されたんだ。 あいつに。 『また一緒に生きましょうね、ナーヴァ』 そして彼女は約束を守ったのだ、と思った。 きっとこの子は、彼女の生まれ変わりだ。 不安げに恐る恐る俺を見ていたヴェロニカに、俺は微笑みかけた。 「よろしく、ヴェリー」 ヴェロニカのあだ名を言い当てたことにヴァレンティーネは少し驚いたようだった。 そして自分のあだ名を言われたヴェロニカはやっと安心したのか、はにかむように俺に笑った。 「よくヴェロニカのあだ名わかったね、兄ちゃん」 「いや、昔……同じ名前の友達がいたんだ。死んじゃったけどね」 「そうなの? じゃぁこの子生まれ変わりだね。よかったねヴェリー、またナーヴァ兄ちゃんと会えたね。嬉しいでしょ、んー?」 ヴァレンティーネに抱きしめられてヴェリーは何のことだかわからないと言った様子で彼女を見上げた。 俺は笑った。そして彼女から差し出されたヴェリーを、優しく抱きしめた。 ヴェリー、久しぶり。今の君は、すごく幸せそうだ。 「ヴェリー、俺はナーヴァって言うんだ。よろしくね」 「ナー、ヴァ?」 「そう、ナーヴァだよ」 君は俺に言ったよね。今度また生まれてくることが出来るなら、その時は今よりもっと幸せな子になりたいって。 だけど俺とまた一緒に生きたいって、言ってくれたよね。 「また一緒に生きよう、ヴェリー」 今君に会えて本当によかった。 「………ヴェロニカって、いたんだ?」 「え、あぁ。うん」 あのあとひとしきり子供たちと夕方まで遊び、教会で食事をとることになった。 そして今俺たちは食事をしている。 子供たちは別の部屋。 かちゃかちゃと、スプーンとフォークがぶつかる音がする。 「連れてこられたときに居た。茶髪に灰色の目したメイド」 「ふぅん……その人も、死んだの?」 「あぁ、死んだよ。3年前に。きっとあいつが殺したんだろ、彼女、よく俺のこと守ってくれてたから」 「そ、っか……」 リィはそこまで聞いて俯いた。俺がそんなことをさらりと言ってのけたことに悲しんだのか、彼女の不幸を思って悲しんだのかは知らない。 俺はリィに言われて、彼女といた日々のことを徐々に思い出していった。 肩まである茶色の髪。前髪の間から見える美しい灰色の目。 細い手と足。 俺があいつに暴力を振るわれたり、犯されたりしたあと、彼女は必ず手当てをしてくれた。 名前は、ヴェロニカ。 「今日まで彼女のこと、忘れてたんだけどな。もう3年前のことだし」 「……そう言えば教会にいるヴェロニカも、3歳だよな」 「あぁ、だからあの子はきっと生まれ変わりだよ。ヴァレンティーネもそう言ってた」 「よかったじゃん、また会えて」 「うん」 そう、本当によかった。俺の口元に思わず笑みが零れる。 そしてふと考えた。 彼女はここで生まれることが出来た。 だからきっと俺も死んだらこの場所に帰ってくるのかもしれない。小さな姿になって、あの孤児院に入っている一人になって。 そうなればいい、と思った。 あの場所でもう一度生まれて、今度こそ、今度こそ幸せになりたい。リィのような人にも、また出会えるだろう。 こんなことを言ったら絶対にリィに叱られそうだから、言わなかったけれど。 そんなリィは、テーブルを挟んで俺の前。 俺の倍の量は平気で食べている。 俺は笑った。そして、神父さまやシスター達が作ってくれた夕食に再びフォークをつけた。 「お前よく魚食べれるよな。信じらんねー」 「は? 別に、美味いじゃん」 「絶対無理! 魚だけは絶対無理!」 「……変な奴……」 「てか、お前大分食べれるようになったよな。よかった」 かちゃ、と手が止まった。 そう言えば、そうだ。 あの雨の日から5年ぶりに外に出てきたとき、そしてリィに初めて助けられたとき、俺は本当に何も食べられなかった。(水すら無理だった) 何を食べても美味いなんて思えなかったし、食べたいと思ったこともなかった。 それが今は。 「最初ほんとお前何も食べなかったじゃん。正直このままこいつ死ぬんじゃないかって、俺結構心配してた」 よかったよ。やっぱあのとき、お前辛かったんだよな。 その言葉が嫌に響いて聞こえた。 俺の、中に。 今は、辛いけどどうにか、前を向いて歩けるようになった。 確かに、辛いことの方が今でも多いけれど。 「………お前がいたからだよ、リィ」 こんなに、 こんなに好きだ。 お前がいたから。 「愛してる」 聞こえないように、とてもとても小さな声で呟いた。 left : 2006.3.16 あなたに会えて本当によかった 嬉しくて 嬉しくて 言葉に出来ない |